全国の死別者様のためのZoom交流会

2010年5月 工藤慶一さん〜札幌遠友塾自主夜間中学代表

工藤 慶一(くどう けいいち)

1948年旭川生まれ。石油販売会社の総務部に所属し、資金繰りや決算などを担当。「北海道に夜間中学をつくる会」共同代表。顔写真は写真家の大坂忠氏撮影。

目次

探し求めていた活動

 私が生まれ育った旭川市の春光町(しゅんこうちょう)や花咲町(はなさきちょう)は、旧日本軍の兵舎などが多く残り、そこには樺太から引き揚げてきた人たちがたくさん住んでいました。とても貧しくて、小学校の同級生の中には、修学旅行に持っていくお米がない人もいました。中学3年の卒業間近の時、あだ名が「デン助」というクラスメートが、彼の亡くなったお兄さんが使っていた高校の数学の参考書を私に手渡ししてこう言いました。「ヤカン(私のあだ名)、これを使って世の中を良くしてくれ」と。その時彼は、すでに両親も亡くしており、親戚の家から中学校に通っていたのです。彼自身は上の学校に行くこともかなわず、私に何かを託したのです。それは、とてつもない人生の宿題でした。

 このため、大学を出て普通に就職する気もおこらず、大学理学部を3年で中退し、印刷工場で何年かアルバイトをした後、石油販売会社に就職しました。学びたくても学べないことがあり、だからこそ本当に学びたいという人の願いに応え、共に歩むことのできる道とは何かを、この間、私はずっと考えてきたように思います。

自分の考えていたことが具体的に動き出したのは、38歳の時、1987年の北海道新聞に掲載された「遠友塾読書会」の記事を目にしてからでした。牧野金太郎先生(故人)が主催し、札幌で自主夜間中学の設立を目指していました。北海道で10万人を超える実質的に義務教育を終えていない人たちが切実に学びの場を求めており、憲法第26条にある教育を受ける権利を具体化したいという願いから始まった活動で、会の名は、1944年まで50年間続けられた「遠友夜学校」からつけられていました。この動きは、私の探し求めてきた道だと直感しました。すぐに参加し、2年後には札幌遠友塾準備会を開いてスタッフを集め、賛助会員を募集し、3月に北海道新聞に記事を載せていただいて受講生を募りました。入学希望の電話が鳴り止まず、学びを求めている人たちがたくさんいることが分かりました。とうとう100人を超えたところで募集は打ち切らざるを得ず、残りの人には翌年まで待っていただくほどでした。

自主夜間中学の活動と広がり

 1990年に始まった授業は、20年間で約300人の卒業生を送り出してきました。受講生の年代は10〜80代と幅広く、現在も85人が学んでいます。

 遠く旭川・風連・釧路・函館から3年間通った卒業生たちもいました。小さい時に子守りに出され学べなかったある女性は、結婚するため彼の実家に行ったところ、彼の母親から「教育のない母親に子どもを育てることはできませんよ」と言われ、結婚の話がなくなったこと、そのときの言葉があまりにショックで二度と結婚しようと思わなくなったこと、ビルの名前が読めないために友達と待ち合わせることもできなかったことなどを教えてくれました。彼女はようやく遠友塾にたどりつき、今では手紙も出せるし、立派な作文を書けるまでになっています。また、戦争で学校に行けなかった人や中国残留孤児とその家族、就学免除で学校に行ったことがなかった車イスの人、不登校を経験し家に引きこもりになった人たちなど、たくさんの人々が遠友塾の門をたたきます。学ぶ喜びで笑顔一杯になる受講生と共に歩めることが、私たちボランティアスタッフ80人の誇りでもあり、幸せです。

 しかし、こうした学びの場を維持していくためには様々な困難が伴います。何といっても、以前教室として使用していた札幌市民会館がなくなる事態に直面した時のように、教室の確保には本当に長い間苦しみました。あらゆる努力を傾け、札幌市長や市教育長はじめとする行政の方々や札幌市立向陵中学の教職員・生徒・PTA・町内会の皆様のご理解をいただき、また実に多くの方々が支えてくれたおかげで、昨年春から向陵中学校で継続的な「夢」の授業が実現しました。待ちに待った「本物」の学校での授業です。

 自主夜間中学で学ぶ人の輪は、全道に広がっています。一昨年の旭川遠友塾に続き、昨年春には函館遠友塾と釧路「くるかい」が開設されました。今後もたくさんの自主夜間中学が道内にでき、さらに公立夜間中学(※)の設置も求めていくことで、学びたいと願う人々の灯台になれればと思います。また向陵中学の生徒さんとの交流を通じ、若い人たちに学ぶことの意味を発信していきたいと考えています。

 昨年9月、「遠友塾20年のつどい」が170人の参加で開かれ、受講生・卒業生・スタッフが思いのこもった生活体験発表を行いました。笑顔で学ぶ受講生の人間としての素晴らしさに感動し、支えてくださる方々の温かさを再認識しました。これからも私たちスタッフと受講生は「心友」であり続けることでしょう。

 私は、クラスメートだったデン助に、今も心の中で「これでいいのか?」とつぶやくことがあります。これからも、「学ぶことが生きることの証と喜びになる」というスローガンをかかげ、不思議な力をもつ夜間中学の素晴らしさを多くの人たちに知っていただきたいと思っています。
※公立夜間中学は、東京・大阪を中心に全国に35校ある。

受講者・スタッフ・支援者募集

遠友塾の授業は毎週水曜日18:15〜、1日2教科50分ずつ、国語、数学、英語と月1回の社会を学びます。受講料1,000円/月。
ボランティアスタッフは、各クラスの受付・会計・教材プリントの整理保管・日誌の記録・授業補助などを行います。
また、賛助会員には、私たちの新聞「遠友だより」を定期的にお送りします。年会費ひと口2,000円(何口でも結構です)。振込み先/郵便振替 講座番号 02730-3-44636 加入者名:札幌遠友塾自主夜間中学 


札幌遠友塾自主夜間中学

ホームページ http://enyujuku.com/

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