中野 匡子(なかの まさこ)
コロポックルさっぽろ 代表理事
1939年帯広生まれ。父親の仕事で、札幌を含む道内各地を転居して過ごす。30代は主に東京で暮らし、帰札後の1982年には「生活クラブ生活協同組合・北海道」の設立に関わった。NPO 法人コロポックルさっぽろの他、脳外傷友の会コロポックル(家族会)、小規模作業所コロポックル、コロポックルレディースなどを開設し、運営に携わる。家族は、夫、娘、息子と孫3人。
息子の事故をきっかけに
1997年、横須賀市で暮らしていた息子は水産関係の仕事に就き、外国に出張したこともある、ごく普通の自立した青年でした。親分肌で友人が多く、親姉妹にも面倒見のいい子でした。ところがある日、交通事故に遭い、息子の人格はすっかり変わってしまいました。バスを待つ間、イライラして吸殻入れを蹴飛ばしたり、私が読んでいる本を取り上げてゴミ箱に投げつけたりしました。私は、息子がどうなってしまったのかわからなくて怖くなりました。
手術後は、車いすか寝たきりの生活になることがほとんどであった当時、息子は口も手足も動くようになったので、手術は大成功…のはずでした。息子が怒りっぽくなったことについては、医者に「キレる子は、その辺にたくさんいるでしょう」と片づけられた時代で、交通事故や脳の病気、スポーツ・転落などによる脳の損傷の後遺症が、高次脳機能障害とはまだ言われていませんでした。
翌年、日本で初めて神奈川県で「脳外傷交流シンポジウム」が開かれました。北海道から出席したのは私だけでした。当事者の家族たちの体験を聞き、「脳外傷の後遺症」の凄まじさを知りました。いずれ息子を連れ帰る札幌にも家族会を立ち上げなければ、と感じました。
その後、私は札幌で息子と向き合い、闘いながら、心と脳のリハビリをしてもらえる病院を電話帳で一軒一軒調べたり、友人が紹介してくれた先を訪ねたり、公的機関に問い合わせたりしました。でも、息子に合うところはありませんでした。高次脳機能障害という言葉が、札幌ではまだ理解されていませんでした。
たまたま、高校の同期会の打ち合わせで、同じように交通事故にあった息子さんをかかえた篠原節さん(現NPO 法人コロポックルさっぽろ副代表)と出会いました。いろいろ話
したことで、同じ状況にある他の家族はどんな生活をしているのか気になり、「北海道にも神奈川のようなリハビリセンターがほしい」と改めて感じるようになりました。
新しく生まれ変わった命が輝くように
公的機関も病院も頼りにならないのなら私たちでやるしかないと決意し、マスコミを通じて、当事者や家族が顔を合わせられる場への参加を呼び掛けました。そうして出会えた家族には、当事者と何年間も暮らす中で耐えてきた精神的、経済的苦労を涙ながらに語る方たちが多く、開催する度に参加者は増えていきました。そこで、まずは安心して定期的に集える場を作らねばと考え、1999年2月に家族会を設立しました。
昼夜が逆転している当事者を何とか社会に適応させる必要に迫られ、翌月には小規模作業所を開設しました。これがなんと、日本では初めての高次脳機能障害者を対象とした作業所となりました。国立リハビリテーションセンター(埼玉県)から「何か資料はありませんか」と問い合わせを受けた時には仰天しました。同年6月には、神奈川県や名古屋市のリハビリテーションセンターの専門家や家族の方々と、北海道からは私と篠原さんの2人が参加して、アメリカの3つの州を8日間かけて視察することになりました。。会を設立して間もない時期で、毎日、作業所ではトラブルがおき、相談電話への対応にも慣れていない中で、視察先の資料を読んだのは飛行機に飛び乗ってからとなりました。視視察先のひとつ、バージニア州にあるリッチモンド病院傘下のクラブハウスは、部屋の雰囲気は「コロポックル」とちっとも変わらないのに、脳外傷に精通した医療関係者、臨床心理士、認知リハビリの専門家、ケースワーカー、カウンセラー、レク療法士、ジョブコーチなどがサポートチームを組み、当事者のリハビリプログラムを作成して実施し、評価する流れができていました。また、1日の運営費は、なんと私たちの1年間の活動費に匹敵する額でした。帰国後、札幌でもこの様なことが実現できないかと私たちは医療機関や行政に働きかけてきました。日本でも高次脳機能障害者への支援の体制が少しずつできてきましたが、まだまだアメリカの10年前にさえ追いついていないのが現状です。
現在、コロポックルの家族会では、毎月第2金曜日に例会を開いている他、相談業務、講演会、会報発行などの活動を行っています。帯広、旭川、函館には支部もあり、それぞれの地域で高次脳機能障害の啓蒙活動や当時者のサポートをしています。さらに札幌市内では、男性が対象の「クラブハウスコロポックル」と、女性た対象の「コロポックルレディース」の二つの作業所を運営し、通所者は脳の回復に合わせて、石けんやお菓子作り、調理やゲームなど、ゆっくり、ゆったりしたプログラムで過ごしています。
「癒しの時を経て、新しく生まれ変わった命が輝いていくように」―そんな願いを込めて、彼らが作業所を足がかりに新しい人生のスタートをきるお手伝いができれば、と考えています。
こんなボランティアを募集しています
通所者にとって少しでも脳の刺激になり、心がワクワク、楽しくなることがあったらいいなと考え、当事者と向き合って話を聞いてくれる方、オセロや囲碁、トランプなどのお相手をしてくださる方、歌やギター、書道、絵手紙、英会話などの指導をしてくださる方などを募集しております。ご連絡ください。ボラナビ・サーチの募集記事(内容は同じです)。
NPO法人コロポックルさっぽろ
メール koropokkuru@mail.goo.ne.jp TEL:011-858-5600 FAX:011-858-5696
札幌市豊平区月寒東1条17丁目5-39
ホームページ http://www.koropokkuru.info/