朝日新聞出版AERAアエラ(2024年12月23日号)で紹介されました。

2024年12月23日号 AERAアエラ(朝日新聞出版)

アエラ
アエラ

AERA(朝日新聞出版・2024年12月23日号)で、死別の会員様のコメントとお独り様会について紹介されました。

Yahooニュースでも紹介され、コメントがついています。

以下は掲載された本文です。

目次

後悔のないよう「今」を大事に~パートナーの死とその後の生き方

「まさか妻が先に逝くとは」ー。パートナーと死別した際、「男性ならでは」の困難が存在するという。生活自立力、そして人間関係のリスクヘッジも大事だ。

「前向きに生きることに頑張りすぎないで、ただ老いてもよし。絶望感と寂しさで自殺してもよし。何くそともがいてもよし。そう感じています」

 60代のこの男性は一昨年、妻を亡くした。人生すべてを持っていかれた気持ちになったが、自分らしさを取り戻すことが死んだ妻の遺言のように感じ、がむしゃらにもがいたという。

「何もしないで家にいて天井を見ている時間を減らすため、仕事は救いになりました」

 しかし、「突然サヨナラされた妻」をひきずる毎日は続く。

「いまだに写真がまともに見れません。やさしく可愛いやつでしたし、妻のコピー(代わり)は見つかりません」

抗うつ剤が手放せない

 パートナーの死にどう向き合い、その後をどう生きるか。一冊の本に思いを込めた人がいる。漫画原作者の城アラキさん(71)。2010年の4月、妻の淳子さん(当時54)をすい臓がんで失った体験を『妻への十悔 あなたという時間を失った僕の、最後のラブレター』にまとめ、今年5月に上梓した。

 淳子さんの死後、抗うつ剤が手放せない時期もあれば、酒浸りの日々もあった。15年には城さん自身が大腸がんの手術も。苦しい時間の中、2年間かけて本を書いた。なぜか。

「大学時代から一緒でしたから、妻が死ぬということは自分の半生を失う感じでした。13年間、『妻の死』が受け入れられなかった。文章にすることで自分の中でそれをもういちど確認し、納得したいという思い。また妻がどういう人間であったかを残したい気持ちもありました」

 本を書いたことで気づきもあった。パートナーを失った後、「回復はしない」ということだ。

「13年たってもやはり妻のことを語ると涙が出る。やはり、妻がいた時点には戻れない。自分が違う場所に着地するしかない。パートナーを亡くした人は、『回復しよう』とは思わない方がいい。しっかりできないのにしっかりしようとすると、どこかに無理が来ると思います」

 連れ添ってきたパートナーを、失う。悲しみの中、「その後の日々」は言い尽くせないほどの厳しい道のりになる。

「とくに男性は、自分を取り戻していく過程で難しさを抱えがちだと思います」

こう指摘するのは、パートナーと死別した人など独身者の友人づくりを支援する「お独り様会」を主宰するNPO法人ボラナビ代表の森田麻美子さん。冒頭の男性も会員だ。死別者限定のランチ会を毎月、Zoom交流会も隔月で実施している。

「まずは心の準備ができていないことです。中高年の男性の場合、夫の方が年上で経済的に妻や子どもを支え、家事や育児は妻に任せているパターンが多く、妻と子どもに看取られて先に逝く将来像を持っている方が多い。『まさか妻が先に逝くとは』という声はよく聞きます」

 また妻の方は大黒柱を失って経済的な不安を持つことは多いものの、今日明日困るわけではない、いわば長期的な不安だ。

「しかし妻を亡くした夫は任せっきりにしてきた家事など短期的、緊急の課題にさっそく直面することも多い。ATMでのお金のおろし方がわからず困ったという男性もいます」

買い物は朝イチに行く

 慣れない家事をする中で、つらい気持ちに引き戻される。そんな難しさもある。ある男性はゴミ出しに行くたびに近所の人にお悔やみの言葉をかけられて嫌になり、会わずにすむ時間にゴミを出すようにしたという。

「スーパーで買い物をしている夫婦の姿を見るとつらい。そんな話をされるのも男性が多いです。『見せつけられている』気がするので、スーパーは朝一番に行くのだと。そんなことが急に気になってしまうんです」

 パートナーと死別した人が直面する困難。シニア生活文化研究所代表理事の小谷みどりさん(55)も、そこには「男性ならでは」が存在すると話す。

 2011年、夫(当時42)を突然死で亡くした小谷さん。15年にはパートナーを亡くした人たちと「没イチ会」を結成、「先立った配偶者の分も2倍人生を楽しむ」をモットーに活動している。

「生活自立力のない男性が多いんです。子どもの頃は母親、結婚したら妻。誰かが面倒を見てくれないと生活できないので、妻を亡くしたら野に放されたヒヨコ状態になってしまう」

 2年前に妻が突然死したという元大企業役員の男性は、トイレの掃除の仕方を知らなかった。自分の下着のサイズを知らず、「パンツはスーパーに売っている」ことを最近知った男性も。

共依存はリスキー

 もちろん、「妻に先立たれた男性」といってもさまざまだ。仕事が現役で妻を亡くした人と、定年退職後に亡くした人とでは違いがあると小谷さんは言う。

「現役で仕事が忙しければ妻がいなくなった悲しさを直視することなく、そのうち妻のいない生活に慣れる人もいなくはない。だけど定年退職後、共に一日の時間を過ごす中で妻を失うのは悲劇としか言いようがない。かつ闘病期間が長かったりすると、『妻のためにやってあげている』という感覚も長くなるので、燃え尽き症候群のような、『何としても生きててほしかった』という気持ちにもなりがちです」

 子どもがいるかいないかでも「その後」に違いは出る。ある男性は子どもがおらず、妻を亡くしたとたんに生きがいをなくしてしまったという。自分一人なのに、別にあくせく働く意味はないじゃないか、と。

「その男性は休職の後、早期退職しました。男女共働きが増えたといっても、男性の方が収入は高いというカップルが多いので、男性側に『養うために働く』という意識は強い。養うべき人がいなくなり生きがいを見失う傾向はあると思います」

妻を亡くし、悲しくて引きこもる。それはそれで、本人がいいのであれば、いい。でも、自分はまだ、生きている。生きたくても生きられなかったパートナーのために、ポジティブに生きることが大事だと言う小谷さん。そのために私たちが注意すべき点についてこう話す。

「夫婦仲が良いのはもちろんいいこと。ただ、夫または妻だけしか頼れないという共依存の状態はとてもリスキーです」

なぜか。パートナーを失った後を生きる上では、「我慢しない」が大切になってくるからだ。

「『男たるもの』という気持ちからか、悲しくてつらくても思い切り泣いたり怒ったりできない人が多い。でもパートナーを失うという人生の大きな危機に直面したのだから、がまんしなくていいんですよ。自分の気持ちを吐露できる、とくに『泣ける友だち』をパートナー以外に作っておく。そんな人間関係のリスクヘッジが大事です」

死んだ人の分も生きる

 回復しない悲しみ。漫画原作者の城アラキさん(71)は、今年5月に上梓した『妻への十悔 あなたという時間を失った僕の、最後のラブレター』を、自分にとってかけがえのない「誰か」を失った「あなた」に読んでほしいと話す。

「かけがえのない誰か。私にとってはそれが妻だった。大切なのは『死んだ人は、あなたが幸せになってくれることを必ず祈っている』ということ。何をするにも、どういう判断をするにも、それを頭に置いておく。それが、『死んだ人の分も生きる』ということだと思います」

 仲睦まじい夫婦もいれば、いがみ合う夫婦もいるだろう。でも少なくとも今、二人とも元気で生きている夫婦だからこそ、大切にしてほしいことがあると城さんは言う。

「多くの夫婦は、『先のこと』ばかりを二人で見ているんです。子ども欲しいよね。いつか家も買おうか。老後はどうしようか、など5年後、10年後の未来は見るけど、目の前の相手との『日常』をちゃんと見ていないことが多い。私もそうでした」

 でも一緒にご飯を食べたり、喧嘩したりといった何げない日常の時間は、病気災害などさまざまな形で、たちまち失われることがある。そのときになって初めて、それがどれだけかけがえがなく、取り返せないものであるか、そして同時に未来も失うことであるかに気づくのだ。

「夫婦は『先』だけを見るのではなく『今』を大事に、お互いの目を見て向き合う二人だけの日常を重ねてほしい。そうすることでもしかしたら後悔のない、たとえどちらかが亡くなったとしても『じゅうぶん生きた』という思いになれるのかもしれない。そう思います」

(編集部・小長光哲郎)

AERA 2024年12月23日号より抜粋

目次