近藤恵子(こんどうけいこ)
NPO法人女のスペース・おん代表理事の他、NPO法人全国女性シェルターネット共同代表や北海道ウイメンズ・ユニオン書記長を務める。20代から女性運動にかかわり、「女のスペース・おん」を活動拠点として、相談事業・調査研究活動・政策提言活動・教育啓発活動・ネットワーク活動などを展開している。
女と差別というモノサシ
1947年、日本国憲法施行の年に生まれた私は、戦後民主主義の申し子として「恵」まれた人生をたどるはずでした。戦後のベビーブームでぎゅうぎゅう詰めだった教室には「和子」「憲一」などの名前が多かったことを記憶しています。60年安保から70年安保へと時代が移る間に高校・大学へ進学し、全共闘運動やウーマンリブのただなかに身をおいていました。アメリカの公民権運動やフランスの5月革命を初めとして、世界のあちこちからマイノリティ(黒人・若者・女性等)が政治の表舞台に登場し、歴史を書き換えていた時代です。
2000年ニューヨーク国連世界女性会議にて 女性であることの不利益に具体的に直面したのは大学を卒業してからです。幾つも採用試験を受けましたが、ことごとく不合格となりました。同様の条件をもった男子学生はすいすいと将来を約束されるのに、何故、どうして、という疑問は大きくなるばかり。「女だから」ということを不合格の理由には認めたくなかったのですが、同じように就職できないたくさんの女子学生の存在によって、理不尽な性差別が横たわっていることを思い知らされました。1人で食べていかねばなりませんでしたから、「女は死ねと
言うのか」と心の底から不安に思ったものです。たまたま女に生まれたから、障がいを抱えていたから、在日に生まれたから、アイヌだったから、部落出身だから…。本人の意欲と努力の及ばないところで社会的な不利益を被る、差別される、ということはあってはならないはずです。しかし日々の生活のあらゆる場面で、女達は、憲法に定められた男女平等も基本的人権も確立されていない現実を生きています。私は20代の頃からたくさんの職業をつないでなんとか生活しながら、「女と差別」というモノサシで世の中を測ってきました。
「女のスペース・おん」の15年
「優生保護法」が改悪される「労働基準法」の保護規定が撤廃されるクビになった女性労働者を支援しようなどなど、ことあるごとに共同行動をとってきた女性達が「場」を持とうと集いあったのは1993年でした。
1970年代から新しく動き出したフェミニズム運動の担い手達がネットワークの中核を形成しています。市民運動のリーダー、研究者、議員、医師、弁護士、自治体職員、自営業者等、様々な野で活動を展開してきた女性達の経験、知恵、情報、人脈、パワーが「女性の人権ネットワーク事務所」につながりました。
「女(おんな)」から「名(な)」をとって「おん」。名無しの女、無名の女達の連帯こそが世の中をり変えていくのだという志が「女のスペース・おん」というネーミングに込められています。同時に、いつもスイッチがONになっている=現在活動中の意味も重ねられています。たしかにこの15年間、女達の活動がOFFになったことはありません。
セクシュアル・ハラスメント、ドメスティック・バイオレンス、レイプ、ストーキング、などなど、「女のスペース・おん」によせられる相談のほとんどは「女性に対する暴力」という人権侵害ケースです。職場で起こる性暴力犯罪=セクシュアル・ハラスメントに対応するために、1993年の秋、「さっぽろウイメンズ・ユニオン(後に「北海道ウイメンズ・ユニオン」へ改組)」を立ち上げました。以来、被害にあって労働権・生活権・生存権すら脅かされるたくさんの当事者とともに闘いを続けています。北海道から初めて(全国2例目)セクハラ被害の後遺症で労災認定を勝ち取ったのも、当事者を中心とした粘り強い渉を展開したからです。
さらに、私的領域でおこる暴力犯罪=ドメスティック・バイオレンスの被害から回復しようとする女性・子ども達のために、1997年、道内初の民間サポートシェルターを開設しました。シェルターというセーフティホームを受け皿にして、相談から生活再までの多領域にわたるサポート活動を当事者とともに切り拓いていく日々が続いています。翌年には北海道シェルターネットワークが生し、さらに全国女性シェルターネットが活動を開始しました。当事者の痛みを自らの痛みとする女性達のネットワークが「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律(DV防止法)」を生させたのは、2001年のことです。日本の社会にDV根絶施策を位置づけてきたのは、まさに、暴力の只中から身を起こす当事者の行動があってのことでした。
女性と男性との間に不対等な関係性のゆがみがあることを最も苛酷に指し示すものが「女性に対する暴力=性暴力」の存在です。性暴力の根絶が女性の人権の確立にとって最重要の課題であると、私達は日々の活動実践を通して確信してきました。女性であるということを理由にしてふるわれる暴力の深刻さ。暴力のなかで育つ子どもの問題。3日に1人ずつ、夫の手にかかって殴り殺されている妻達の存在。
意思決定も作業も女性達で協力しておこなう 人々が無かった事にしてきたこの課題を、当事者女性自らが発見し、その犯罪を定義し、解決のための法システムをり上げてきたのです。女達の支えあいのネットワークなしには実現できない仕事でした。現在、女のスペース・おんの常勤理事として業務に携わっているメンバーの中にも当事者の方々がいます。運動の第一線を担っている彼女達の存在を私達は心から誇りに思い、この活動こそが世界の枠組みをり変える希望に満ちた事業であることを確信しています。
NPO 法人女のスペース・おん
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