朝日新聞出版AERAアエラ(2024年12月23日号)で紹介されました。

2009年1月 野呂美加さん〜NPO法人チェルノブイリへのかけはし代表

野呂美加(のろみか)

NPO 法人チェルノブイリへのかけはし代表
22年前に起こったチェルノブイリ原発事故被災児童を1ヶ月間、空気や水のきれいな日本で保養させる活動を1992年に知人と始める。これまでに招待した子どもは、17年間で635人。2005年、国際交流基金より「地球市民賞」受賞。夫と大学生の娘と3人暮らし。

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素直じゃない性格が幸いして

 自分は、「決められたことを守るだけ」がとっても苦手なたちでした。大学時代は社会福祉を専門に勉強していましたが、施設での現場実習で見たのは事なかれ主義。疑問があっても従うしかない組織の論理がいやで、また、素直になれない性格でしたので、窒息しそうになりました。もしも、自分が施設の入居者だったら一日も持たないでしょう。アルバイトまでして大学に通い、熱心に学んだ福祉の世界でしたが、あきらめて編集業に携わりました。
そのため、チェルノブイリへのかけはしは、「自由」であまり決めごとのないスタイルをとりたいと思っていました。みなボランティアでやっているのですから、自分の頭で考えて…と。しかし、そのために会の運営は大混乱。組織をつくったほうがいいとか、ルールを決めたほうがいいとか、様々な声が寄せられました。活動を始めた当初、自分は20代後半で、時には自由がトラブルを引き起こすということは知らず、また、トラブルを回避しようという意識もほとんどありませんでした。

前列右端が日本で保養したイーゴリ君。2人目は里親さん。

 チェルノブイリで被ばくした子どもたちを日本で保養させるという内容も、前代未聞で周囲の理解を得るのが難しく、また旧ソ連も崩壊したばかりで、今日決めたことが明日にはまったく通用しなくなるような情報が、どんどん入ってくる状況でした。でも、だからこそ、決めごとの少ない体制は臨機応変に対応しやすかったという長所もありました(結果論ですが)。初めての1ヶ月ホームステイは、手探りでなんとか無事終了。被ばくして顔色も悪く、目の下に大きなクマができてどんよりとした表情だった子どもたちが、たったのひと月で、まるで別人のように瞳をキラキラと輝かせ、リンゴのほっぺたになって千歳空港から帰っていったという事実は、自分たちの宝となりました。新しい活動を始めると、どこからともなく「評論家」が集まってきて、非難にさらされるもの。でも負けずぎらいな自分は逆に、それらの非難のおかげで、チェルノブイリの子どもたちを守らなくちゃと、猛然とがんばれたのかもしれません。

振り回されるけど放っておけない

 立ち上げ時期が過ぎると、日本の評論家たちよりも、ベラルーシ共和国の子どもたちやあちらのNGOの考え方に私たちはよっぽど苦労させられました。ホームステイ中は、一つ屋根の下に二つの民族が住みます。彼らは気まぐれだし、自己主張も強いし、結果オーライ、時には結果もどうでもいい、楽しければいいという姿を見せつけてきます。このことは、保養運動の根幹にかかわる大問題でした。
異文化バトルを無くしてお互いが理解しあうために、日本の里親さんと共に、ホームステイで受け入れた子どもたちを汚染地であるベラルーシに訪ね、家庭環境などを徹底的に調査しました。好き嫌いが多いわがままな子ほど、しつけもできないような劣悪な環境で育っている。お金もない、夫もアルコール中毒で子だくさん。そのような家族ばかりが汚染地に残されていました。それでもその家族が生きていられるのは、一家の大黒柱である母親たちのおかげでした。バター、チーズ、ヨーグルト、はちみつ、ジャム、ピクルスをはじめとする1年分の保存食も、それらの源である家畜も野菜も全て手作り。お金に頼れない生活。自分の手だけで家族を養っているという誇らしげな母親の顔。でも、その畑が全部放射能に汚染されているのを知らず、必死に耕している彼女たちがふびんでなりませんでした。「自分の命をあげるから子どもを助けて欲しい」と握ってくれた手を見ると、まだ20代なのに、30代後半に見えるほどシワシワで、爪まで真っ黒でした。子どもを健康にしてあげたいという親の愛のエネルギーが、私たちの活動の中心にどっしりと根をおろしています。

海風には甲状腺にいい成分が含まれている。海のないベラルーシからきた子どもたちは大喜び

 ベラルーシの放射能汚染地には、経済的に困窮した人たち200万人が住み続け、被ばく二世が生まれ始めています。母親の胎内から受け継いだ放射能により、子どもなのに骨粗鬆症で立てない、血液異常、頭蓋骨が正常に大きくならないなど、薬で治せない病気がものすごく増えています。徴兵制があり、チェルノブイリ事故前は成人男性の8割が兵役に就いていましたが、今や普通徴兵は3割に激減しています。病院は病人であふれているのに、政府は「もう放射能はなくなった」と言って国民を安心させるしかありません。プルトニウムが半減するまでに2万5千年もかかるというのに…。放射能が目に見えたらどんなにいいでしょう。
 旧ソ連とのおつきあいのおかげで、「自由」な中にも秩序は必要だとしみじみ思うようになりました。だけど、システムで人や組織を縛った結果、大規模な巨大科学技術や開発だけが、国民の意図とはまったく関係のないところで経済を優先しスムーズに進んでいく。その後始末は、子どもと母親達が過酷に背負わされるのだということ、そして家族が仲良く健康的でいられることに勝る幸せはないということを、地球上に住む全ての人々に私は伝えてゆきたいと思っています。

こんなボランティアを募集しています

・写真や映像をデジタル化する作業に協力していただける方
・車で荷物を運んだりする作業にお手伝いいただける方

NPO 法人チェルノブイリへのかけはし 
札幌市中央区南15条西6丁目2-13 高杉マンション101号
メール info@kakehashi.or.jp
TEL・FAX:011-511-3680
ホームページ http://www.kakehashi.or.jp

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