朝日新聞出版AERAアエラ(2024年12月23日号)で紹介されました。

2010年2月 三膳時子さん〜NPO法人霧多布湿原トラスト理事長

三膳 時子(さんぜん ときこ)

NPO法人霧多布湿原トラスト理事長
1957年北海道浜中町生まれ。85年に霧多布湿原ファンクラブの会員となり、事務を手伝う。。理事長就任後は時間がなくなり、たまにヒマができてもうまく使えない自分にとまどう日々。

目次

私のふるさと

 1987年8月、結婚して7年目にできた長女の出産と「霧多布湿原ファンクラブ」の設立月が重なった。私がこの仕事に大きく関わった歴史を振り返るとき、わが子の年を数える。未熟児だったわが子も、ファンクラブ(現在「霧多布湿原トラスト」)も、今は心配なく成長している。こんなに長くこの会に関わるなんて、自分でも想像をしていなかった。なぜ関わることになったのだろう。湿原や植物に詳しい知識を持っているわけではなく、ただ地元人というだけで。ここを訪れて「霧多布湿原は素敵ですね、きれいな所ですね」と口々に褒めてくれる人たちとの出会いがあり、そうした方々との対話が楽しく、そのことに感謝したくてこんなに長く関われたのであろうか。土地柄もあり、人と会うことに飢えていたせいもある。若いときは、「こんな所から出て行きたい」と願っていた。都会への憧れも人一倍強かった。

 私は地元の高校を卒業し、札幌の短大に進学した。寮生活を始めて2年目には、今でも親交が厚い仲間と一緒にアパートを借りてルームシェアをした。互いの出身地を紹介しあった時、皆、北海道人なのに、それぞれの町村の場所が分からなくて、私も「霧多布ってどこ?」と言われながら、北海道地図を広げて確かめあったことが今でも笑い話になる。ふるさとを語りあった時、霧多布には自慢できるものがあることを実感し、友達に見せたいと思ったことを覚えている。

 地元に帰り、昆布漁師と結婚した。実家が同業なので仕事には慣れていたが、季節漁のことはまったく分からなかった。漁の仕事で「手伝って」と声をかけられれば、何でもやってみた。春4月から始まるサケマス漁の水揚げ。早朝、岸壁に横付けした船から水揚げされるサケとマスを選別し、魚箱に決まった尾数をいれ、せり市場へと運ぶ。朝日が昇ってくる前にひと仕事を終え朝食を済ますと、はえ縄漁の縄作りに取り掛かる。ウニやツブの加工所などに出かける時期もある。冬は寒風の吹きさらす岸壁で、スケソウダラの魚はずしもする。一年中忙しくミニバイクを乗り回しながら、楽しく仕事をした。

霧多布湿原の魅力に気づいて

 その後、地元にいて比較的自由に時間が取れる専業主婦になっていた私は、霧多布湿原ファンクラブが正式に設立される1年ほど前から、事務を手伝うようになっていた。喫茶店を兼ねた事務所で、とても多くの旅人が霧多布湿原を知っていることに驚いた。ゆっくりお茶を飲みながら湿原を楽しむ。そんな時間の過し方は、私たち地元の住民を刺激した。ここで生活し、毎日この自然を見ていたが、いい所と思ったことはなく、立ち止まってゆっくり時間を過すなんて考えられなかった。「霧多布湿原は素敵。花が毎年自然に咲き、群生する規模が違う。花が次々と変化していく様子はおとぎの国のよう。素晴らしい」などと便りをもらったり、「自然を見て感動し、涙しました」などの電話を受けているうちに、地元を見る私の目が変わった。

 こんな所はどこにでもあると思っていた。海があって、漁師がいて、ただ使いきれない湿原(谷地)がある。40年ぐらい前には馬の放牧地として活用していたものの、荷揚げに車を使うようになった頃からその役割すらもなくなり、何も使い道がない土地として残された。そんな見放されたところでも、当時子どもだった私たちにとっては格好の遊び場で、外遊びの思い出を語ると必ず湿原の話が出てくる。遊んでいた湿原で埋め立てられた箇所もずいぶんあるから、今、残っているところは「奇跡的に残った。残してもらえた」と思うようになった。

 私たちの活動の一つに、湿原を買い上げ、未来の子どもたちへ残すというものがある。民有地である地主さんへ、湿原が緑になる頃にお願いの手紙を出す。それは必ず感謝の言葉から始まる。「いつもきれいな湿原を見せていただきありがとうございます。今年もたくさんの方々に喜ばれることでしょう。この美しい湿原のある環境を未来の子どもたちへ残してやりたいので、どうぞ湿原を譲ってください」―2000年にNPO 法人を取得後、このような文面で、「湿原を譲ってください。買います」と意思表示をしてきた。

この湿原を子どもたちへ

 2008年には霧多布湿原で最大規模の民有地売買の話があった。湿原を買うとは言っていたが、1,200万円は持ち合わせていない。そこで、霧多布湿原ファンの皆さんへ寄付を募ることとなった。「たくさんのファンがいる、応援者もいる」とは思いつつ、社会情勢の大変なこの時代に寄付を募って、どのくらい助けてもらえるのか不安だった。発信する過程でも、多くの方々の協力をいただいた。結果、2ヶ月弱で1,200万円以上集めることができた。今年2月には売買契約も無事に済み、霧多布湿原を最も広く所有していた方の土地が未来の子どもたちへ引き継がれることが決定した。霧多布湿原周辺の私有地は1,200ヘクタールと言われているなか、約半分が保全地となった。

 私のふるさとでもあるこの霧多布湿原が、皆さんから褒められ必要とされている場所なら、大切にしたい。自分もここに住み続ける以上、気持ちよく暮らしたい。そして可能な限り、豊かな自然環境を未来の子どもたちへ引き継いでいこうと思っている。

ボランティア募集中

霧多布湿原トラストでは、ガイドやその他様々な業務を行う研修生を募集中。
2010年4月から、ここで1年間勉強してみたい方はご連絡ください。

NPO 法人霧多布湿原トラスト
trust@kiritappu.or.jp
TEL:0153-62-4600 FAX:0153-62-4700
〒088-1531 浜中町仲の浜122  ホームページ http://www.kiritappu.or.jp/

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