朝日新聞出版AERAアエラ(2024年12月23日号)で紹介されました。

2011年4月 谷光さん〜札幌子ども日本語クラブ代表

谷 光さん〜(たに あきら)
札幌子ども日本語クラブ代表

1943年生まれ。札幌市立苗穂小学校を振り出しに2003年伏古北小学校を最後に定年退職するまで市内6校に勤務。現在、北海道教育大学札幌校、名寄市立大学非常勤講師。

目次

「札幌子ども日本語クラブ」との出会い

退職するというのはやはり寂しいものです。教師という仕事は朝から晩まで、夜中は夢の中で、朝起きてもいつの間にか、受け持ちの子どもたちについて考えることがあります。また、この十年ぐらいで随分「キツイ仕事」に変わりました。「できれば早く辞めたい」という教師たちの声も多く聞くようになりました。「先生」という響きも、かつての尊敬あるいは信頼を込めたものではなくなってきています。毎年、今まで出会ったことのないような子どもたちと出会い、戸惑うことも多く、日々勉強しなくては、経験だけではとても太刀打ちできなくなっています。思えば子どもたちに鍛えられて、なんとか教師としての人生を全うできた36年間でした。

「退職したら何をしようか」と考えてはいたのですが、毎日の仕事に追われ、なかなか退職するという実感がなく、決められないでいました。長年、仕事が忙しくて離れていた油絵を初歩から習ってみたいなど、やりたいことはたくさんありました。いろいろ考えましたが、退職した年の4月、専門学校の日本語教師養成課程に入学し、若者に交じって半年間勉強したのです。学ぶことがとても新鮮で、弁当を持っていそいそと通いました。しかし養成課程修了後、すぐに外国に行って日本語教師になれるというものではありませんでした。そこで、とりあえず講師から紹介された「札幌子ども日本語クラブ」に参加しました。

この会は、さまざまな事情で札幌に住むことになった外国人や帰国者の子どもたちの日本語学習をボランティアで支援しています。もみじ台団地に住む中国帰国者の生活支援をし
ていた方たちが、子どもたちが一日も早く日本語を習得し、安心して生活できるようにと2001年に始めました。ボランティアをする会員は大学生から70代までで、日本語教育に携
わっている方、主婦、元教師、大学生、留学生など、現在は30人程です。

困難を抱える子どもたちの力になりたい

中国から帰国した両親の子K君が、中学生になったある日、自分の気持ちを片言(かたこと)の日本語で語ってくれました。「なんで、二つも三つも言葉を覚えるの?」と。彼のつぶやきは切実なものでした。彼にとっては親の都合で日本に連れてこられたのです。学校では意味の分からない言葉が頭の上を行き来する中で、長い時間じっと座っていなくてはなりません。そして日本語だけではなく、英語や難しいたくさんの教科も勉強しなくてはならないのです。学校では日本語を使い、家に帰れば中国語で生活します。日本語の習得と学校の勉強の大変さから、小学校に転入し、年下の子と一緒に勉強します。思春期を迎える頃には、生まれた国「中国」と親が選択した祖父の国「日本」の狭間で、「自分は何者なのか」とアィデンティティ※ を求めて二つの国の間で揺れ動くことになるのです。

私が青年教師だった頃、受け持ったクラスにではありませんが、中国帰国者の兄弟が入学してきました。5年生と6年生でしたが、実際の年はそれより二つ上で、背の大きな子どもたちでした。そんな彼らがだんだん荒れ、中学に進んだ頃はつっぱりグループのボスになっていきました。言葉の壁は、私たちが想像する以上に過酷だったのだと思います。困難を抱える子どもたちの力に少しでもなれたら―そんな思いで活動に参加しています。また、私はこの会に参加したことがきっかけで「中国残留孤児の聴き取り調査」にも参加させてもらいました。日本人として知らなくてはならない戦争の歴史、しかし知らないで過ごしてきたことがたくさんありました。

遠い外国から日本に来て、日本語が分からず、話せずという子どもたちがいても、今の学校の体制ではほとんど応えることができません。公的な支援体制は皆無です。遠い外国から日本にやってきた子どもたちがまずぶつかるのは言葉の壁。子どもだから早く日本語も覚えるだろうと考えがちですが、教科の内容を理解する上での学習言語の獲得は、これまで育ってきた生活文化の違いもあり、なかなか難しいものです。

 会の先輩のみなさんが発足以来、手厚い支援の必要性を繰り返し要請してきたことが実を結び、2006年から札幌市教育委員会の「帰国・外国人児童生徒教育支援事業」が始まり、ボランティア登録をした会員が市教育委員会の要請で学校に行って支援をしています。私が会に参加した2004年当時、対象は中国帰国者のお子さんが多かったのですが、最近は留学生のお子さん、国際結婚で日本に来た方たちのお子さんなど国籍は多様で、母語も英語、中国語、ロシア語、カンボジア語、ハングル語、インドネシア語、タガログ語などです。来日までの経緯も様々で、日本語学習だけでなく、生活の基盤を整えたり、生活上の悩みや進学など様々なことにもサポートが必要になっています。私たちでは対応できない困難な問題もあり、各専門家や市民団体のみなさんとの連携がますます必要です。

※自分は何者であり、何をなすべきかという個人の心の中に保持される概念

ボランティア募集中

日本語教師養成講座修了または修了予定、大学で日本語教育を履修された方、日本語教育に関心のある方は一緒に活動しませんか。対象の子どもさんにもよりますが、週一回程度、放課後の時間帯です。

札幌子ども日本語クラブ
TEL・FAX:011-782-0635 (谷)

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