7月はイベントを10回開催しました。

2012年3月 宍戸隆子さん〜避難者自治組織「桜会」代表

宍戸 隆子(ししど たかこ)
避難者自治組織「桜会」代表 

1972年福島県生まれ。東日本大震災発生時まで、県内で育つ。2011年6月、原発事故による放射能の被害を懸念し、中学生の長男、小学生の長女と共に、同じ自主避難者が多数住む札幌の雇用促進住宅に避難。同年8月、夫も札幌に移住。両親は福島に残っている。

目次

忘れられない震災

 東は太平洋、西には阿武隈高地(あぶくまこうち)。その間に広がる水田―私の故郷の記憶です。子どもの頃から、夏には近くの海へ泳ぎに行っていました。それほど広くない砂浜の向こう、松林の影には、物心ついた時から大きな白い建物がありました。東京電力福島第二原子力発電所です。のんびりとした田舎町なのに大きなショッピングセンターやさまざまな施設が建てられ、原発が落とす交付金で町はそれなりに潤っていました。チェルノブイリの事故や、(私が高校生の時に起きた)福島第二原発3号機の再循環ポンプ破断事故を経験し、私は「原発」は危険なものだという思いを強くしていきました。しかしその思いは、就職して、結婚して、子育てをしてという当たり前の日常の中で次第に薄れていました。

 昨年3月に東日本大震災が起きた時、私は勤務先にいました。何十トンもの大きなプレス機で、自動車の部品を加工する会社でした。揺れがおさまってから社内に入ると、天井から配管が落ち、プレス機を留めていた大きなボルトがことごとく外れていました。『どれだけ強い揺れだったのだろう』。呆然としました。操業停止になった会社から自宅に戻る道すがら、「津波がきます! 高台へ逃げてください」と叫ぶアナウンサーの声をカーラジオで聞きながら、私はただ泣いていました。原発はきっと持ちこたえられない。子どもや夫、両親、友人たちは無事だろうか…。

 幸い、子どもたち二人とは途中で合流できました。高校に勤務する夫も、夕方には帰宅しました。震度6弱の揺れだった福島県伊達市内の自宅は、自慢の書庫の本すべてが書棚から落ちていましたが、ほとんど被害はありませんでした。その日は大きな余震が続く中、連絡の取れない両親(無事、翌日に合流)と、ラジオが知らせる甚大な津波被害、そして原発の異常を案じながら不安な一夜を過ごしました。

 結局、福島第一原発は爆発し、大量の放射能が町にばら撒かれました。
 

避難生活からその先へ

 6月、私は子ども二人と共に北海道の地に降り立ちました。自主避難という選択をするまで、とても苦しみました。「この原発事故は大事にならない」という政府見解を私は信じられませんでした。そのことで大切な友人と仲たがいし、子どもたちを大好きな福島から引き離し、夫や両親と離ればなれになってまで「放射能から逃げる」選択をした私は、完全な異端者でした。

 札幌の自主避難者に割り当てられた団地には、子どもを守りたい一心で、知人もいないこの場所に辿り着いたお母さんたちがたくさんいました。『この人たちをつなげたい』。私は1週間もたたないうちに、お茶会を企画しました。二十数家族が集会室に初めて集いました。話題に困らないか心配しましたが、杞憂でした。一斉に話し出したお母さんたちを見て、みながどれだけの思いを抱え込んでいたのかと想像し、苦しくなりました。7月に開いた2回目のお茶会は、札幌のボランティア団体や行政職員の方々もいらして、総勢100人以上になりました。防犯のためにも自治会を作ろうという話になり、私が避難して来てひと月後、全国初の自主避難者による自治会「桜会」が誕生しました。

 自治会を立ち上げたことで、様々な効果がありました。行政と避難者の窓口となり、互いの意見をスムーズに交換できるようになりました。近所の町内会から夏祭りにお誘いを受けたり、子ども会の行事に参加させていただいたりしました。先日は近くにお住まいの方が、手作りのかわいらしいウサギの雛人形を届けてくださいました。何かできることはないか、何をしたらよいか、と震災後ずっと考えていらした方々が、私たちを見つけて励まし、勇気づけてくださいます。
避難生活は、想像以上にエネルギーを消耗します。福島に残してきたお父さんを案じながら母子で生活することも、両親共に仕事を辞めて新しい生活を札幌で一から築き上げることも、とても大変です。

2011年12月2日参議院「東日本大震災復興特別委員会」で、参考人として発言

2011年12月2日参議院「東日本大震災復興特別委員会」で、参考人として発言

 昨年、参議院に参考人として呼ばれた私は、国会議員の方々に「今ここにいる皆さんに、福島の人は見えていますか? 私が見えていますか?」と語りかけました。データでも数値でもない、そこで生きて暮らしていた、そして今も暮らしてる生身の私たちの声がちゃんと届いているのか、それを確認したかったのです。声を上げたくてもさまざまな事情からあげることのできない福島の人はたくさんいます。その人たちの声を少しでも届けたい、そしてもっと福島の、いえ福島以外でも苦しんでいる人たちに目を向けてほしいと思いました。

 でも、私たちは一人ではありません。同じく辛い経験をした、たくさんの仲間がすぐ近くにいます。新たなコミュニティを築き上げることで、私たちは互いに助け合うことができます。そして、私たちをサポートしてくださるたくさんの方々とつながることができます。原発の事故は、いまだ収束の兆しさえ見えません。避難生活の長期化を考えなければなりませんし、さらにはいつまでも「避難者」でいるわけにもいきません。前を見据え、札幌の皆様と共に生きていくことができるように…この自治会活動が、その足がかりになることを願ってやみません。

※避難者自治組織「桜会」は連絡先を公表していません。

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