栗田 敬子(くりた けいこ)
NPO法人エコ・モビリティ サッポロ代表理事
1964年札幌市生まれ。市内の短大卒業後、就職。25歳で結婚、出産で家庭に入る。夫の転勤でケニア(アフリカ)に2年間居住。帰国後、札幌で2008年に当会設立。札幌シティガイド、キャリアコンサルタント、商工会議所観光部分科会副会長。家族は夫と息子二人。
海外生活で目覚めた環境意識
商売をしていた実家で、祖父母、両親、叔父叔母、住み込みの従業員と大所帯に育ち、外に出れば多くの人と接し、地域全体に育てられた子供時代でした。兄と弟の間に生まれ育った私は男の子以上に男らしかったのか、「鉄砲玉」「猪突猛進」などと言われていました。小・中学生の頃は音楽活動に関わり、練習を積み重ね息を合わせて一つの楽曲を完成させる喜びを体験し、何かを創り上げるには各人が役割を持ち協調しあう大切さを知りました。
転勤族の夫と結婚して3年目にケニアに住むことになり、1歳半の長男を連れた渡航と場所柄から、健康と安全管理に気を使いました。ケニアの生活は、私の人生観を一変させました。バス代節約のため朝5時から3時間歩いて通勤する人々。警察の取り締まりにめげず道端でとうきびを売る女性たち。新聞には「Lion kills 5 people」の文字。ハエに血を吸われると眠り続けて死ぬ「眠り病」という恐ろしい病気。行きかう人は陽気で人懐こく、目が合えば「ジャンボ(こんにちは)」と声を掛けあいますが決して安全ではありません。使用人が強盗を手引きする、カージャックが頻発する、エボラウィルスが隣国で発生するなど、恐ろしいニュースが飛び交っていました。何があっても全て自己責任と覚悟を決めて生活しました。でも帰りたいとは一度も思わず、帰国時期が迫る頃には、「延長して住みたい」と感じた程です。
帰国すると、2年前まで当たり前だと思っていた日本の生活に違和感を感じました。最新設備が次々と導入され、物事が高速で進み、人ではなく機械でやりとりし、大量に物があふれ、企業は低価格競争を繰り広げる。自然に恵まれた北海道の環境はどうなるのかと危惧を抱きました。そこで、環境に配慮した活動としてゴミの排出削減や節電体験モニター、古布リメイク、廃油石鹼作り、エコバック実態調査(札幌市民環境提案採択事業)などを仲間と始めました。ドイツ人のメンバーから環境先進国の取り組みを聞き、アイディアを出し合いました。
自転車タクシーでCO2削減
並行してエコ検定を受けたり、様々な知識を得たりしていくうちに、節電しているのに簡単に車で買い物に行く自分のライフスタイルに疑問を感じ始めました。車の使用を1日10分控えれば、冷暖房を1℃調節する場合の18倍ものCO2量を削減できることが分かりました。車に代わる環境に配慮した移動手段を探し、自転車のタクシーがドイツや日本で走っていたので早速、見に行きました。卵を横にしたようなかわいらしいフォルム、想像と違って振動も無く座り心地がいい。「この車体が札幌の街を走ったらなんて素敵なんだろう」と思いました。導入に向けてすぐに動きだしましたが、一番の課題は車体の購入費用で、当時、国内で同様の車体が造られていなかったのでドイツから輸入しなければならず、輸送費含め1台170万円かかりました。運行に向けてはその他、法的な規制、エリア、ドライバー確保、事業性などの課題があり、一つ一つをクリアにしていったあの頃は忙しくも楽しい時期でした。幸い環境省のビジネスモデルとして採択されたり、助成金を獲得できたりで2台分の購入費用を捻出でき、その後は運営をサポートしてもらえる企業を募り、北星学園大学などに広告サポーターとして応援していただいています。
2008年に5台で運行を開始し、毎年約8,500人に利用されています。当初は想像していませんでしたが「車の邪魔」「NPO がお金を取るなんておかしい」「自転車が車道を走ったら危ない」などのクレームが警察、市役所、道庁に寄せられました。新しいことを始めるのはこんなにも大変なのだと改めて感じ、まちに受け入れられるよう、道路交通法の理解、関係機関との情報共有などで対処しました。また、自転車タクシーは人力車や馬車のように観光用の乗り物と思われているようですが、利用する方の半分は札幌市民です。最寄駅から目的地まで公共交通機関が無くて歩くには遠い、かといってタクシーに乗るまでもない場合に喜ばれています。女性の利用が全体の6割、特に子連れの時や重たい荷物で移動が大変な時、病院の行き帰りなどに繰り返し利用していただいています。昨年からは高齢者の外出機会提供や、認知症予防に回想法を活用しながらまち中を周る福祉的な運行にも取り組んでいます。
乗った方が「楽しかった」「風が気持ちいい」「癒される」「街の人が手を振ってくれて嬉しい」など感想を聞かせてくれます。環境に優しい移動手段として提供していますが、利用される方の動機は「楽しそう」「乗ってみたい」「お得」というものでした。広く一般の方に受け入れてもらうためには、こういう動機が重要なのだと実感しています。「○○エリアで走らせてほしい」「こんな使い方をしたい」とリクエストをいただくので、これらの要望に応えられるよう団体としても力を付け、賛同してくれる方々、漕いでくれるドライバー、そして利用してくれる方々に感謝し、移動だけではない良さを提供したいと思います。
※ドライバーも随時募集中です。
NPO法人エコ・モビリティ サッポロ
札幌市中央区中央区北1条東7丁目10-58
メール info@ecomobility-sapporo.jp TEL:080-4075-7806
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